私言葉

花言葉? 何よあんた紫陽花あぢさゐ捨てちやつて、とつても綺麗だつたのに。氣に入らなかつた? いや、綺麗だつたんでせう? だから足を止めてたんでせう? ほんと酷い。あんたの縮こまつた腦味噌で受容したどうでも良い理由で殺しちやふなんて。うん? ああ、確かにきりばなはもう死んでゐるかもね。でもかうやつて――そんな悲鳴こゑ上げないでよ! ――どう? 前々から歸り道にあつて、何か汚いなあ、とか思つてたのよね。ああ、私だつて氣持惡い。でも恐い物見たさで見ちやふのよね。ほら。ブツブツがいつぱい。胡麻みたいぢやない? かういふのにもメッセージがあつたりするのかしらね? ――嫌がらせ? そんなこたあ無いわよ。嫌がらせだつたら……匿名で送るもの。自分の手を汚すやうな眞似しないでせう? これはやましい事でも――本當は厭だけど――汚い事ぢやあないのよ。でも酷いわ。捨てるつて。あんたのお母さんさう言つたのよ。代りに捨てませうか、つて。あんたよくそんな事言へるわね、つて、あんたのお母さんぢやなかつたら文句の一つも言つてたわよ。さう、この草は死んでゐるか知れないけれど、彼らは生きてゐるの……。今もかうして、死んだ草から取れるだけ取らうつていふ態度よ。だから、いつそてんたうむしでも採用しようかなつて。さう言へば庭のからすゑんどうにゐた氣もするの、それもでつかいのが! ねえ、これにももう一種類あつて、ほら、步道橋の手前の緣石に生えてる草、あそこに群がつてるの、赤いのよ。前ウィキペディアで讀んだんだけど、あれつて外國から來たんですつて。や――見直すつもりも無いんだけどね、見たくないから! んで、去年の春、玄關先の雜草にたかつてたのも赤くてさ……いつの間にか父さんが引つこ拔いちやつた。ああ、グロテスクだけど――この群がつてるブツブツをこそげ落したらどうなつてるのか、見たくない? 吸はれた跡、嚙まれた跡があるのかしらねえ……もう穴ぼこだらけになつて、見るも無慘な。肌がぞわぞわする!

――で花言葉なんだけど、どうして蟲言葉とか獸言葉とかつて無いのかしらね? 動物と話せるつて言ふ人も世界にゐるけどさ、蟲とか草木とかとは話せないのかね? パソコンとかスマートフォンは? 服は? 寶石は? 私のリュックは何て言つてるの? あんたのブラジャーは?

――もう! だつて、きついんだもの。ブラもきつさうだし、私の肌もきついつて言つてるわ。どうして眞つ赤な輪つかが出來るまでやんなきやいけないのか、金屬なんかで(ああ、これも喋つてゐるの?)體を矯正しなきやいけないのか、私さつぱり解んないの! 私たちは昔の紐できッつきつにしたコルセットなんて嗤つちやふけどさ、金屬を押當ててるつてのは今でも變らないんだわ。さう思ふのつて私だけかしら!

……ああ、解つた、解つた。店の前で言はないつてば。豫約のお客さん? そんなの待たせとけば良いでしよ、これから私がいくら使ふと思つてるの――? え? 來店拒否、笑つちやふ! あんたの母さんが年金だけぢや食つてけない事は判つてんのよ、あんたもさうよ、まともに商賣も出來ない癖にさあ……

はあ、はあ、あつそ。好きにすれば良いわ、拒否すれば眼の前に現れないと思つてる? 馬鹿みたい! ――さうやつて客の爲とか言つて、どうでも良い言葉を一つ一つ覺えていつてさ。自分で名前でも意味でも與へりや良いぢやない――だから私は私が綺麗と思ふ物を、贈つたのさ、なのにあんたはさ……。モテないよ。失戀するよ!

あは! あたしの方がさうだつて! ――

――良いお世話。結構。さやうなら。花とか日附とかさ、厭なのはさ、見る度に思ひ出す事なんだ。去年の今頃は、とか、山茶さざんに向つてこれ椿かなつて言はれた事とかさ。でもまあ良いの! ――あんたの良かつた事には、あたしの好きな花が知られなかつたつて事かな。

何も穢されずに、濟んだ、あたしはあたしの爲にその美しさを愛でる事が出來るんだ――。

だから、あたしといふ花の事は、けつべつといふ事にしておいてよ。

あんたといふ花の事は――ああ、ああ、それだけは、あんたが聞かせて。あんたが決めて。

さうしたら明日にはあんたが散つて、別の場所に、あたしの球根が根附く。

花は咲いてるだけ、出逢ひとかわかれとか無く、あたしたちャ種を飛ばすだけですもの?

さて。あんたといふ花の言葉は――?