やあマリー
切らなかつたのは、私の名前を知つてゐたのと、聲が好みだつたからだ。年は四十くらゐ? 命令を受けるには、良い時間だつた。
私はシャツを脫いだ。
窓を開けてくれないか?
カーテンを引き、言はれた通りにした。向ひはベージュ色のカーテンが引かれ、人影が浮び上つてゐる。
ねえ、私今下著なの、シャワー浴びたばつかり。金髮
知つてるよ。シャンパン
が、背後に置いてあるのはビールだ。
カタログにはさう書いてある
私は顏を赤らめた。あなた何なの? 業者? まさか盜撮してるの?
とにかく窓は開けておくんだな。いつ殺人鬼が來ても、氣附いて貰へるやうに
そこで電話は切れた。
同時にノックが三囘——心臟が跳ねたが、パパ覗き穴から見れば、數箇月ぶりの顏があつた。友逹には口止めをしてゐたが、もうばれてしまつたのか……。
開けるんだ、マリー
私は溜め息を吐き、錠を外した。
ベッドに飛附いて、シャツに手を伸ばす。先程あつた電話のせゐでほつとする反面、うんざりする氣持もあつた。正直に吿げたなら、彼は町に連戾すだらう。そして庭から私の生活振りを確認するんだらう。
もう大人なんだから、と口を開かうとした瞬間、ぱちんと燈が消し飛んだ。
机
と、電話が掛つて來た。著信表示
當協會の時間軸
それから手短な報酬の聯絡と布敎を受けた。俺は電話の側面のダイヤルを十廻すと、いつもの番號に掛けた。
俺だ
惡いんだが今囘は……分割拂ひつて事になりさうでな
搜査局か?
軸の介入だよ
ほう?
それも百發百中のな——これをどう思ふ?
さあ? ……單純に、百年先の人間だかつて事ぢやないのか?
かもな——
そこで話は終つた。
俺は重なつてゐた、もう一枚の資料に眼を遣
奴
一人の惡夢が消え、一つの命も消える、か。
皮肉だとは思ひながら、俺は又ダイヤルを廻すわけだ。
もしやり直しができるなら——俺だつて——
俺は事務所の開いた窓から銃身を差入れると、俺の頭に向つて、發砲した。