中古物件

彼と別れても別れなくても、あなたは孤獨を感じ續ける。あなたにとつて一番の彼は、日を追ふごとに古くなつて、あなたは著古した彼を恥づかしく思ふやうになる。ずれた妄想に暮れる頃、あなたは服を換へてゐる。新しい彼はあなたにとつての幸福で、でもあなたの吐く言葉は變らない。彼によつて景色が變る。景色が變つた些末さをあなたは呟く。色取り取りの服。色取り取りの景色。でも、あなたは變らない。

服を著る事に飽きた頃、あなたはやうやく裸になつた。裸になつたあなたには澤山の蟲がつく。こすれた葉つぱで、澤山の擦り傷も。恥づかしい部分を隱したくなる頃、あなたは必要最低限の覆ひを見附ける。

ぴつたりの布はあなたに合致する。傷を曝したあなたは、誰よりも强く見える。けれどもそれは、あなたが誇示するからではない。隱しはしないから見える單純さが、あなたを野生たらしめる。

野生のあなたは言葉を失つた。服といふ程の餘裕も無くて、あなたは裸になつて覆ひを公園の水道で洗つてゐる。再び身に纏つても、大した感觸の無い事を知る。

つまり、私たちは一部になつた事を知つた。

私たちが結合した意味を知つた。


ポストにこんな詩が入つてゐた。日附は十年前、宛名は隣人だつた男。でも今はゐないから、私が開けてしまつた。署名は無し。

階段をのぼりながら考へる。別れても別れなくても感じる孤獨――だとすれば、生きる事とは地獄ではないのか。一人が――孤獨が恐いから一緖にゐるのではないか? ……一緖にゐる孤獨が解らないでもない。でも、自分が厭ふ孤獨感を選んでしまふ程、私は愚かではない。

十年前、確かに、男が一人騷いでゐたつけ。あれはさういふ意味だつたのかも知れない。

自室のドアを開ける。荷物を放り、シャワーを浴び、サワーを口にしながら、壁に耳をつける。

――ああ。

今日も、馬鹿な隣人は住み心地を實況してゐる。