「COMITIA149」出展サークル作品所感

目次

  1. ポストカード よこ著(サークル名:よこ、配置:し18a)
  2. 土のドーロと雨のパニ るるぽ著(サークル名:カラマンダリン、配置:A81a)
  3. にせブックスシリーズ② にせ犬2 みやいりんたろう發行(サークル名:にせ犬、配置:B43b)
  4. 奇譚の回廊 huyichun著(サークル名:麻辣胡辣湯、配置:A74b)
  5. ロイド特別捜査官 Episode 0 YASHIMA著(サークル名:架空世界広告社、配置:E12a)
  6. 量産機 ペンギン好きを貫く著(サークル名:ペンギン好きを貫く、配置:E09a)
  7. Sirius MIKAMI LEMON ILLUSTRATIONS 三上レモン著(サークル名:柑橘騎士団、配置:E12b)
  8. MADOX-01 guraman2023 承 編 秋元こうじ著(サークル名:GRUMMANA&AMP、配置:E10a)

ポストカード よこ著(サークル名:よこ、配置:し18a)

何だらう。作品名はあるんだらうけれど、聞かなかつた。百圓ぢや安過ぎるくらゐ。美しい「場面」。三枚買つたのだが、一番のお氣に入りは高架下の景色で、これは自分用笑。アナログなのかな。ドアの前に猫がたむろしてゐるシーンは猫避けのペットボトル、赤い自轉車、ブレーカー(?)、棚に置かれた觀葉植物と、細かく「日常」が寫し取られてゐる。朝顏、室外機、上階から垂らされたすだれ、ドアの奧に掛つた藍色の暖簾のれん——鮮やかな綠遣ひが何とも「夏」つぽくて好き。もう一枚は水族館なのかな。見上げた一面に美しい靑。手前の人影が、その巨大さと美しさをよく映してくれてゐる。現實に近い、幻想的な風景。

土のドーロと雨のパニ るるぽ著(サークル名:カラマンダリン、配置:A81a)

フルカラーの繪本。鮮やかで美しい色彩に、丸みを帶びたキャラクターが優しく映える。土の子ドーロが、兄弟とはぐれた雨の子パニのため、共に海を目指す。

自然現象に「死」は無く循環する、といふのは、やなせたかし先生アンパンマンに出て來るユキダルマンの話を思ひ出した。存在そのものは朽ちていく事は無いのだけれど、心ある彼らには(身體が溶けてしまふなどの、つまりは自然の法則である)「不自由」さが、そしてそれに次ぐものとして「孤獨」こそが痛みであり死に近いものなのだと感じた。總じて「獻身」が强く出てゐるけれども、「自然」といふ何物の都合にも寄らぬ、しかし彼らの母なる存在が“ありのまま”描かれてゐる事がこの作品の價値(核心)かと思ふ。ここで都合良く「魔法」の登場しないところが良いのだ。

フォントは「しねきゃぷしょん」だらうか。讀書が苦手な私にも安心して讀める出來。萬人に勸められる。

言つてみれば(友逹のために自分を捧げるといふ)「ありがちな」話なのだが、變に押附けがましくないところが良い。

何より美しい色彩、かはいらしいキャラクターが目を引くので、スペースの前を通つて無視できる人は中々ゐないと思ふ笑。

漫畫版もあり、ティアズマガジン14935PにPush&Reviewで寄せられた感想が揭載されてゐる。又、多摩美術大学美術学部情報デザイン学科情報デザインコースの卒業研究制作展2024「From: To:」に同作品が展示されてをり、それによると著者はアニメーションも制作してゐる。

畫面いつぱいにイラストを堪能できる幸せ。大膽に大きく描かれてゐるところが良く、優しい繪柄ながら、ふんだんな色遣ひと構圖が、見易く迫力がある。眼に入れて、實に滿足感があるのだ。

目次、ノンブル無し。34P36P

備考

にせブックスシリーズ② にせ犬2 みやいりんたろう發行(サークル名:にせ犬、配置:B43b)

シュール系の漫畫。一作目にせブックスシリーズ① にせ犬と共に購入。

寫眞(?)にイラストを合成する形で描かれる。最近犬飼おうか迷っててなどと友人に話したのが運の盡き、勝手に「犬」を送り附けられ、しかもそれは犬ではない「何か」だつた。主人公はその生命(とも附かない)に「にせ犬」と名附ける。

少⻝、ケージから出る、排泄しない、發聲しない、藝を覺えないなど謎の生態を持つにせ犬。「主人公以外は氣附いてゐない」といふ事で他の人間はどうなんだ? と思つたが、世間では普通に(本物の犬に交じつて)「ペット」として成立してゐる。まあ他の飼主も氣附いてゐたらそりや騷ぎになるわな。とすると、寧ろなぜ「主人公は氣附けたのか」? 送つて來た「友人」の事も氣になる。テキストと通話のみしか登場せず、最初は最近新しく生まれたからと言つてゐるのに、次に問ひ質すと拾ったと答へ、音信不通になつてしまふ。まあ「拾つたにせ犬が(出產するなどして)新しく生れた」といふ意圖なら本當の事なんだらうが、わざわざ飼い方(しかもシンプルに三箇條)まで用意して、何をどこまで知つてゐるのだらう? 二條の餌は飼い主と同じものを少し、三條の尊重すること(何をどう?)も氣になる。これを破つたらどうなるのか? 映畫グレムリンのやうに恐ろしい事態になつてしまふのか、ギャグの側面とホラーの側面があり、何となく氣にさせる作品。寧ろ「底が知れない」ところがこの作品の魅力かも知れない。「恐ろしい」エイリアンと假定してしまふと、フィクションを見慣れた人間には容易に展開が豫想できてしまふから。違和感を釀し出しつつ、テンションはまだ日常と平行線にある、その絶妙な具合がこの「にせ犬」のかはいらしいところかも知れない。外にほつぽり出したり引つ叩いたりしたら、犬猫と同じやうに法で罰せられるのだらうか(犬と認識されてゐるならさうなんだらう——「殺處分」されるにせ犬もゐる?)。主人公のところのにせ犬は大人しく愛嬌さへ感じるが、よそのにせ犬はすばしつこいの、でかいの、狸つぽいの、⻝パンつぽいのもゐる。

しかし“犬”を蟲取り網で追掛ける人なんてゐるんですかね……それだけ跳ね廻つてるつて事なのか……

ジャンル不定なのがどこに向かつていくか分らず、わくわくする。奇妙な決り事はまさにグレムリンを彷彿とさせる。布團ですやすやと眠つてゐるにせ犬はかはいい。P&Rイラスト投稿に挑戰しようと眞似てみるが、簡單に描けさうで、あの獨特なバランスを再現するのは難しかつた。

そもそも主人公が犬を飼はうと思つた經緯いきさつ、そしてペットとして飼いやすすぎる性質からして、「人間の都合で生產されたり殺害されたりする動物を減らすため」誰かが開發した疑似生物つて事はないだらうか。なんかそんな風に思へて來たぞ!

ティアズマガジン14939Pに揭載。

目次、ノンブル無し。一作目は22P24P、二作目は18P20P

備考

奇譚の回廊 huyichun著(サークル名:麻辣胡辣湯、配置:A74b)

恐らく元は中國語。三篇からなる飜譯漫畫。それぞれ2〜5Pと短いが、ブラックユーモアとオチがあり面白い。魔界の萬屋、殺人鬼、靈退治の道士、とデザインやモチーフはアジアンテイスト。短篇ながらもキャラクターが背景にガッチリと嵌まり、「普段の樣子」が目に浮んで來る、生き生きとした作。新刋が樂しみ。

表紙は龍(?)と對峙する戰士の、これ又クールで重厚なイラスト。これが目に入つて足を止めた。惜しむらくは、サークル名や著者名の讀み方が分らない事だらうか。何と發音するのだらうなあ。スペースで直接聞いてみた方が良いだらうな。

奧附に發行日が入つてゐない。スペースで「新刋」と宣傳してゐなかつたら分らなかつた。

A4版とでかい。目次、ノンブル無し。18P20P

魔界のツインズ

魔界で萬屋を營む綺(戰鬪要員)と羽(經理)。赤字だよから始まつて、その顚末で彼女らの「日常」がありありと浮んで來る。薬を買ふ余裕はある?とピシッと締めて來る羽と、何の惡怯わるびれない綺が上手くコンビとしてマッチしてゐる。經費の明細として出て來る魔界の小道具も好き。

殺人鬼のバッグの中身

タイトルが直球。常に得意げな表情を見せる殺人鬼。大切なに、どういつた意圖で人を殺してゐるかが何となく透けて見える。話自體面白いが、後書に書かれてゐる「著想の切つ掛け」も尙面白かつた。

ソファに座る道士

道士が爺ぢやなくて婆つてところが良い。かなり大膽(大股を開き、へそ出しルック)な恰好で座つてゐるのも良い。依賴があつたら卽座に料金かねの話をするのもいかにもプロつて感じ。しかし一般の霊故人つてどう違ふんだらうか。死人が靈となる他に、種としての「靈」がゐるんだらうか? それなりに昔の話つぽいけど「エアコン」があるんだなあ笑。陰気のせい? それともエアコンが冷たいだけ?と穩やかな表情で話してるあたり、道士にはユーモアが無いわけでもない。オチはさすがつて感じ。これぞ短篇の終り方だ。靈の畫風タッチは何となくアメコミチック。

刀を構へる婆さん恰好良い。次回また登場するかもしれませんので、お楽しみに。との事。これは要チェック。

備考

ロイド特別捜査官 Episode 0 YASHIMA著(サークル名:架空世界広告社、配置:E12a)

「さうさう、かういふのが見たかつたんだよ!」まさにそんな作品。冒頭の漫畫と設定畫はフルカラー。14P16Pの薄い本。人間と同等の地位を持つロボット、ロイド(R.O.ID, Registered Officer ID)と人間の物語。「Episode 0」は摑みの小話と設定が載つてゐる。サンプルはメロンブックスで見てゐて(ロイド特別捜査官 Episode0(架空世界広告社) | メロンブックス)、正直な話、この人の作品が無かつたらCOMITIAに行つてゐなかつたと思ふ。最近はロボット/AIにしか興味が無いもので……

ロボットが人權を持つ、といふのは浦沢直樹著PLUTOを思ひ出す(私は一卷しか讀んでゐないが)。「彼ら」に抵抗や嫌惡を持つ人間も明確に描寫され、「ロボットは道具」といふ價値觀が拭へ切れてゐない社會で、物語は展開していく。このロイドがどれ程の規模人間社會に配置されてゐるのかは定かでないが、「敎師」や「官僚」も存在し、人間が「管理される」側面も明白に設定されてゐる(すると、囘想のロボットがお焼香?ロイドとうまくやれは、相當昔の話と感じる。ロイドの誕生、普及、一般市民の認知、支配層への擡頭、この流れからして、描かれてゐるのがどの時點に位置してゐるのか、はものすごく氣に掛るところだ。人間キャラのプロフィールにはかなり具體的に時間軸が表れてをり、ロイドが急速に浸透していつた事が窺へる。使役されるだけの存在と共存してゐるとしたら、人間とロイド、雙方の認識に「ねぢれ」、生々しく言ふなら「葛藤」が生れる事は言ふまでもない。私がいつも考へるのは、政治家や開發者といつた權力者トップが、どのやうな意圖で人工知能に人間の管理を「委ねる」か、だ。「讓る」と言つても良い。そこにこそ社會が變質していく「眞相」があり、にやりとできる)。最後の話では一企業を經營するロイドが登場し、亡くなったこちらの社員について事情聽取されてゐる。

ロイドも犯罪を犯すのか? 所有者は? 何を目的として動いてゐる? 報酬は? 金錢を受領してゐるとしたら、何に使つてゐる? ロイド以外のロボットの扱ひは? 「死んだ」ロイドは「亡くなつた」と表現され、墓も建てられるのか? など、環境面を氣にし出すと止らなくなつていく笑。

高度に發逹したアルゴリズムを人間と同等に扱ふ事の是非を初めとして、「ロボットもの」には作者の數、いや物語の數だけ「可能性」(「答へ」ではなく)が廣がつていくので、そこが樂しみだ。「Episode 1」を所望するッ!

人間キャラに「穩健派」「中立派」「愼重派」「現金(實用)派」がバランス良くゐるのが良い笑。ロイド搜査官、T、G、Lの性格については觸れられてゐないが、彼らにも「同胞」「人間」に對する各々のスタンスがあるに違ひ無い。

「パーソン」としてのロボット——ライバル

ロボットに關する書籍はあと三サークル程購入してゐるのだが、やつぱり私は兵器を初めとした「道具」としてのロボットよりも、キャラ——“パーソン”として描かれるロボットが好きなんだなあと、改めて思つた。まあ人間が作つたとすると「道具」として扱はれる事は免れないのだが、その地位を利用したり曲解したりして、人間といふ「支配者こま」をどう動かすかが、彼らの“生存”の要となる事には變り無い。人間側からすると、まづ自分たちの地位を脅かす存在は物であれ生命であれ「制御」しなければならないわけで、「制御するかしないか」つてのはすごく的外れな議論はなしだ。その「讓步」は制御できてゐる安心感から來る驕りではないかつていふ疑ひが私の中にはずつとあつて、「野放しのけだもの」を相手にして“共存”を選擇できる人間がどれだけゐるかつていふと、殆ど無い。實際のところ、その「知能」の程が人間に匹敵するか否かに拘らず、「全自動」で動作するものは人間とは異種族の何かだ。「調整」の對象になる。……要するに何が言ひたいのかつて言ふと、動力エナジーの起り、數字の羅列、鋼鐵の肌、「生存」を懸けたライバルが存在するつて事に私は燃えてゐるのだ。だから「ロボットもの」は良い。大好きだ。大抵はロボットが人間に隸屬してゐる話が多く、そこが詰らずとも作者の必須描寫科目なわけで、ここを越えなければ明日は見えて來ない(「越える」とは必ずしもロボットの叛逆、解放、勝利、自由を意味しない。物語それぞれの描寫、峠の越え方を意味する)。

人の模倣

あと地味に氣になるのが「服」かな。なぜ著てゐるのかつていふと、「人間社會に馴染むため」「人間と同等である事(=尊嚴)を示すため」だらうか。私も一應「ロボットもの」の小說を書いてゐて、そこでは寧ろ、人間とプログラムの雙方が著衣を初めとした人間の模倣を禁じてゐる。差別、境界を明確にする事で、それぞれのアイデンティティやロール(役割)を同化せず、プログラムが人間にとつて代る可能性を排除してゐるのだ。實際、優れた道具は、人間の生きる意味(活動)すら取上げてしまひかねないところがあり——社會の仕組を認知し、作り、實行するのがロボットであつたとしたら、例へ人間が甘い汁を吸ふだけといふ特異の地位であつたとしても、社會に「生きて」ゐるのはロボットであるとは言へないだらうか。生活樣式の「則り」はその一步である。

私はロイドがロイドを管理してゐるのか、も氣になる。彼らの割當(使命)は誰が決め、彼ら自身が變更可能なものなのか、又ロイドがロイドを生產する事はできるのか(「種族の生產管理」はゲームDetroit: Become Humanでも少し觸れられてをり、勢力擴大と「權利」の確率には必須の槪念である。「生存」とは、ただ「稼働」してゐる事とは違ふのだ)。

「名前」は自らを認識するための記號だ。これは人間でさへ、大槪は他人から與へられたものを使つてゐる。規則から外れ、あるいは自己認識を持つロボットは、自らを何と稱するか。「機械言語」もあるが、これも實際には人間が作り上げたもの(ロボットを管理する上で、人間は自分が理解できないものは作らないし、作れない。「ロボットが行ふ創造」はロボットに「內緖話ひみつ」を持たせる事であり、人間は認めないだらう——つまりは祕密とプライバシーの禁止)。どのキャラクター、特にロボットに附けられた名前には規則性があるはずで、それを考へるのも面白い。

私たちが當り前に持つてゐるものを、彼らは持たず、彼らを通す事で、私たちは自分の「當り前」に氣附く。

ロボットとは「期待された人間」

高度なロボットに求められてゐるのは、そこにゐたかも知れない、一人の人間を演ずる事だ。資本主義が求めるのは高機能で安い、代替可能な勞力だ。そこで、社會が人間をどう扱ひたいかが、透けて見えて來る。生物學的、倫理的、經濟的、多種多樣な躊躇ひがよぎつても、結局は、ロボットの扱ひは、かつて我々が同族にして來た事、そしてこれからも期待する事を、代替させてゐるに過ぎないのである。「人間に似せる」つてのは勞働する上での效率を優先してだけれども、本質的なところでは、私たちは「人間」を必要としてゐるのだ。……そんな「期待」の中で、擬似的な人間であるロボット/プログラムが人間とどう關はり、「生きる」意味を見出していくかが私の樂しみだ。だから一々彼らのやる事を見てゐる笑。

有能だが完璧に支配され、個を持たないといふのは、人間の理想とジレンマだ。私たちが力を渴望する程、そして手に入れる程、私たちは周圍に變化を與へ、力を恐れる人々から束縛されていく。老い、死、種の保存といつた「自然に對するアンチテーゼ」もロボットは抱へてゐる。私たちの(生れた瞬間から突附けられる「死」への)トラウマや理想、劣等感を、創造物であるロボットは負ふ。

ちなみに、私がサブロ(自作小說に出て來るプログラム)を「警官」と設定したのは色んなコード×人間のトラブルに遇へるからだけれど、肝腎のアクションが書けないものだから、漫畫やアニメを描ける人は本當に羨ましいと思つてゐる。「ロイド」の世界、特搜Q課の活躍をもつと見たいもんだ。火星のレベッカも買つときや良かつた! COMITIA150に御緣があればそちらで!

計算された容姿と好みのファッション

P&Rのイラスト投稿でTやGを描かうと思つたが、全然描けなかつた。Tはスタイル良いよね(スーツ姿だと特に「滑らか」。くびれが目立つ)。といふか、人間キャラも含め皆脚長いよね。胴長短足がゐない笑。私は敬語キャラと長身キャラが好きなので、TとGにぞつこんである。Tは女性的な外觀をしてゐるので、聲のイメージもそれに近い。T、G、Lは三名とも帽子かぶつててかはいいんだ、これが。Lはいかにも生意氣な事言出しさうで、そのへんの想像を沸き立たせる造形がすごく上手いなと思つた(Tを見るあたり、ファッションセンスにも性格が滲み出てゐる)。三名の活躍早く見たいな〜

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參考

備考

量産機 ペンギン好きを貫く著(サークル名:ペンギン好きを貫く、配置:E09a)

フルカラーの世界觀・機體設定集。ロボットデザインは勿論の事、各パーツの細かい解說や重量、EN出力、裝甲材、乘員、生產數など「スペック」が滿載。デベロッパーである企業のロゴも載つてをり、よくここまでやつたなあと。收錄されてゐるのは計20體で(企業は9社)、一人で考へるのは大變だつたと思ふ。

何らかの“災厄”で文明に變化が起き、ロボット產業が發逹する、といふのは何となくゲームアーマード・コア(以下AC)を想起させる。よく見ると年表の端つこに第三次世界大戦つてあるな。「調査省」「査察省」「物流省」などが設定されてゐるが、國家や政府が存在してゐるのかは不明。災厄を免れた人々は太陽系を脫出し、第二故鄕を「パライゾ」星系に定める。様々な船団が入植に成功し、星間国家として巨大な勢力へ成長していく…とあり、一國家の話と思はれる。複合企業體には、通信、物流、造船、モビリティと、軍事產業に留まらない、インフラの根幹を爲す事業者が名を連ねてゐる。機體デザインは角ばつた感じの人型が占めるが、日系企業だらう「イロハ」がリリースする「ヒキャク」のやうな變り種もゐる(腕部が爪先に附く程長い)。欲を言ふなら、四脚(多脚)やタンク、飛行型も見たかつたところ(開發されなかつたといふ設定ならそれで構はない)。

當然のやうに資源を巡つての戰爭が起つてゐるだらうから笑、そのへんの企業の思わく、思想、成立ちも氣になるところ。スペック表には「アフターサービスの充實」「生存率を高める」「擴張性の高さ」「無人機」等のキーワードがちりばめられてをり、企業の特徵が垣間見える。支配領域が塗り潰された地圖があると面白いかも。

「OCOC」といふ、恐らく物流省かなんかの管理部門だと思ふが(色が同じ。OCOCは共通擴張規格を普及させてゐる)、この謎の組織がリリースしてゐる機體、「オーディナリー」と「アサルト」は殆どのスペックが非公開な上、破格の性能を有してゐる。究極の戦闘マシンを目指し都市伝説のような扱いといふところから、ACなら實は無人機だつたといふ設定が附きさうだ笑。開拓群航宙団執行部隊に配備されてゐるらしい。星系の仲裁役みたいなもんか?→確認したら査察省の一部門だつた。査察省は恐らく企業を監視・指導する組織なのだらうが、例によつて「癒著」がある事は想像に難くない笑。そのへんの面白事情スキャンダルも是非描いて欲しい。ハイエンドモデル×執行部隊といふ事で、仕事が「査察」のみでない事は明白。が統括してゐるんですかね?

セキトリは土木建築向けの作業用。武裝化の一例として暴徒が無理やり改造した経緯が述べられてをり、抗議活動なり犯罪なりに作業用ロボットが利用されてゐる事が窺へる。

MOONが出してゐる無人機「ワーキング・ビー」には10機以上の集団行動を得意としとあるが、こんなのが(あるいはアシストAI「ラビット」を積んだ別種の機體が)10機も!? と驚いてしまつた。「汎用機は集團戰が基本」といふのはどのフィクションでも描かれてゐるけれど、一機あたりのコストや耐久度つてどんなもんなのかなあ……。例へばACだつたら「オストリッチ(逆關節脚型汎用機)が10機」と聞いても驚かないし、實際ありさうな配置だとすぐに浮んで來るんだが(そしてACなら突破できると「分る」)、このへんは「手應へ」が無いと上手くイメージできないかも知れない。現實の「戰ひ」だつて私は見た事が無いんだからね。さうなる。

「スペック」の見せ方と進む妄想

戰鬪ばかりでなく土木建築といつた作業用のラインナップもあるのが良い。各パイロット向けの「カタログ」もあつたら面白いなと思つた。企業の自負、姑息なセールス手腕も資本主義社會の醍醐味。2024年10月20日:「設定集」と異なるのは、「利用シーン」がより實際的、演出的に描寫される事だ(「弘吿」)。「利用者ユーザーの聲」とか、自社のエースパイロットの特集なんかもありさう。パイロット、整備士、オペレーターの求人、機體やガレージの賃貸リース、產廢廢棄、パイロット養成學校など、載せられる弘吿オプションはてんこ盛りだぞ笑。

2024年10月20日:各項目に具體的な「單位」を明示してゐるのもすごい。舊作AC(2〜LR)だと速度はkm/h、外氣溫は℃で間違ひ無いが、重量や兵裝の攻擊力、ブースター推進力等の單位は一切記載されない。それは畫面に表示する都合上邪魔といふのもあらうが、「設定の簡略化」が實際のところではないだらうか。詳細に設定する程「裏附け」が必要になり、それがSFといふジャンルの難解さ、面白さになる。私はさつぱり分らないので感心するばかり。自分が書く時は「書かない」笑。

「量產機」は日常を語る

後書にはあまりにもニッチな設定ですがと書かれてゐるが、そんな事は無い。寧ろ皆「特注機」を描きたがるので、世界觀を描寫するのに「普段の樣子」、つまり社會にありふれた「量產機」の存在つてすごく大事なんだと思ふんだよね。一枚の風景畫にしても、そこに映り込んでゐる機體は何なのか、何のためにそこにゐて、どんな人々にいつから使はれ、何を成し遂げて來たのか、つて、「社會(背景)」を讀解くものがあつたら、もつと畫を觀るのも樂しくなると思ふんだ。

漫畫・畫集には省かれ勝ちなノンブル——「參照するメディア」としての內裝

あと、地味にノンブル(ページ數)があるのは有難い(26P)。殘念ながら漫畫や畫集には無い事が多いやうで。

2024年10月20日:物理的な媒體メディアに「リンク」する手段として、タイトルもあるが、最も詳細に指定できるのは「ページ數」だ。言及にしろ確認にしろ、「參照」には必須かと思ふ。

サークル名に僞り無し!!!!

人類が地球脱出後、汚染された魚などを食し突然変異を起こしたペンギン達が団結し高度な文明を築き上げる。といふ一見突飛なやうでゐて、上記の「人類が太陽系を脫出」とちやんとリンクしてゐるからすごい(え、捨置かれた地球の事など誰が氣に掛ける?)。で、擡頭するのがイヌでもイカでもなくペンギンつてところが良いのだ。理窟拔きで推進してる動力源がサークル名そのものにどんと表れてるつて素敵ぢやね?

本當にロボットが好き(人間が出て來ない!!)な人なやうなので、これは應援したいと思つた。

2024年8月25日:補足

私がACのノリで解釋してしまひ、「企業が支配者」といふ體で書いてゐる部分もあり、申譯無い。だが現實世界で企業が政府と政治を搖さぶつてゐるやうに、企業が人々の首根つ子に觸れない日は存在しない。さういつたところで、この「企業」といふ存在は魅力的な、抗ひ難いだ。

あと、私はあまり「宇宙」と「政府」に興味が無いのかも知れない、苦笑。難しい。企業は色物、政府はお堅く、描ける餘白があると考へれば二倍樂しめるといふ事になるが、その魅力は非公式の部署や活動といつた、「謎」になるだらうか(執行部隊のやうな)。政府が揭げるのは公益だが、さう綺麗事ばかりでもあるまい。宇宙は社會を描くのに大事な「環境」。ファンタジーと同じくらゐ、その空間には無限大の可能性がある。ここに何を描くか。ここに何があるか。それが物語の起りになる。

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參考

備考

Sirius MIKAMI LEMON ILLUSTRATIONS 三上レモン著(サークル名:柑橘騎士団、配置:E12b)

フルカラーの畫集。描寫對象は主にロボットと女の子。ファンタジーも少し。コメントを讀むと、パーツの配置や形狀、コックピットの內裝など、「現實的に有り得るかどうか」を檢證しながらデザインしなければならず、いかに難しい作業なのかが分つた。一方で「これは描きたい」といふこだはりもきちんと反映されてをり、ラフ畫にも完成畫にも試行錯誤の痕が、三上さんの言葉によつて刻み附けられてゐる。イラストだけでなく、描き手の謙虛さや迷ひが見て取れる作。


イラストに常にコメントが附いてゐるので、靜謐な氣持で眺めるやうな畫集ではない笑。人によつては落著きやうが無いかも。

メカはやはり根本的に脇役であり、人格のあるキャラクター(パイロット)やストーリーが共にあってこそ輝く…と考え、10P11P)とあり、殘念。しかしストーリー性のある作品を描こうとする切つ掛けにはなつたやうだ。あくまで「人間が主人公」のロボットものが好きな人には良いかも知れない。

9〜16P10〜17Pに出て來るラビットは、文字通り頭部から伸びた長いレーダー(スタビライザー?)と、大きな黃色い眼が特徵の、スカイブルーを基調とする二脚ロボット。かはいらしい見た目はスバル(パイロット)にマッチしてゐる。いかにも「主人公機(モチーフ機)」といふ感じ。そのメカを一言で表せる特徴があるか、また、ロボならではの乗り手によって機体のキャラ性を強化することはできないかといふ狙ひを的確に表現してゐる。當然、そのロボ固有の兵裝や機能もあるんだらうな。このストーリーについては、また今後のコミティアなどでまとめたものを出したいと考えております(未定)。乞うご期待。といふ事で、漫畫かイラストかは分らないが、今後の出展があるかチェック笑。

しかし「少年」(ここでは性を不問とする)がロボットに搭乘する事について、すごく違和感があるんだよな。別に搭乘すべきでないなどと言ふつもりは無いが、十歲そこらの人間が戰鬪も行ふロボットに乘つて何の害も負はないとは到底思はれない。だから「ファンタジー」なのかも知れないが。思ひ附きで私服のまま十メートルはあるロボットに乘り、十代で合法的な殺人を業として營む世界、自らが書いた事は無いとも言はないが、認めたくはないとしても、ありふれ、憧れてゐるのはこのやうな設定だ。

しかし、假にコックピットに坐してゐるのがペンギンだつたとしたら、私は何の文句も無かつた。とすると、私にはどうやら、人間の子供に對する嫌惡があるらしい。

關心が無ければ、著者が見せようとした世界は眼に入らない。同じ「ロボット」でもコンセプトの對局にあるものが好きな私は、適切な鑑賞者と言へない。


一番好きなのは31〜32P32〜33Pの、空を驅けていく可變型ロボットのイラスト。數少ないコメントが無い見開き。下のロボットはアーマード・コア フォーアンサーのVOBを裝備したホワイトグリントを思ひ出す。イラストの出來そのものは良いが、中途半端に畫がページに跨つてゐるため、見難いし醜く見える。他が氣にならないのは、1Pか見開きフルサイズで收まつてゐるからだらう。すると、畫を本(折つて開く物)に收めるのもどんなに難しいかつて話だな。

他、コメントの禁則處理ができてゐないのも氣になつた(18・24・30P19・25・31P)。14P15Pのブルースクリーンの話は單純に面白い。繪心といふか、私たちが創作に求めてゐるのは、さういつた遊び心なのだ。實際、深刻な場面での操縱中に、視界いつぱいにブルースクリーンが展開されたら、話の流れとしても面白いと思ふんだよな。アイディア頂き笑。幻想的な營みにロボットの殘骸(23P24P)、といふのは今年購入した株式会社パイ インターナショナル發行美しい情景イラストレーション ダークファンタジー編 怪異的な風景を描くクリエイターズファイルにも載つてゐるモチーフだが(33P巨大ロボット発見が好き)、不思議と不釣合ひな感じはしない。却つて神々しく、荒廢したロストテクノロジーと、そのしとねとなる事を許す自然の驚異が、想像をび起し胸を熱くするのだ。

四つ腕機體やハンマーヘッド、可変戦闘機も本當は好きなはずなんだが、今一反應できない。厚塗りや色彩が好みでないのかな? イラストを「眺める」だけでは滿足できないといふ事かも知れん。實際、ACのCG集とか觀てもあんまり感動が無いんだよな。私はロボットといふ鋼鐵の型と共に、「物語」を必要としてゐて、人間の氣配が嫌ひなんだらう(「彼ら」に「動いて」欲しいのだ)。

線畫はこんなに細くてしつかりしてゐるのに、厚塗りにすると見えなくなつて立體感と重厚感が出る。妙だ。


ある作品を鑑賞するとは、同時に自分の感性や嗜好とも對面するといふ事だ。「好き」「嫌ひ」で一刀兩斷する事は簡單だが、感想を書くと決めた以上は、自分の手觸りと作者の情熱ねつといふところに手をかざしたい。そこで、改めて思つたのは、畫(集)の樂しみとは、描かれた事の一步先を觀た者が想像するといふ事だ。ラビットにしても、ハンマーヘッドにしても、可変戦闘機にしても、どういふ戰ひ方をするか(どう動くか)想像できなければ、ただの張りぼてになつてしまふ。勿論視覺的な藝術としての價値はあるんだけれども、特にまだ現實には成立してゐないロボットの場合、そして描寫されたのが何らかの「シーン」、切取られた場面の場合、鑑賞する私たちが、その詳細ディテールを想像できなければ、畫の魅力は半減する。言はばイラストは私たちに「現實と化した假定パラレル」を見せてくれる。そこで、私たちが一步踏出せるかどうか、だ。「ラビットにも固有の兵裝があるのだらう」と私が想像した時、私のフィルターに穴が空いた。さうだ、これだぞ、と。しかし私の性癖(笑)はどちらかと言ふと「量產機」的な、「誰もが使へる中で敢へてこれをチョイスし、かう使つてゐる」ところに向くので、「特注機カスタムメイド」は白けてしまふ。だがたつたそれだけの事だ。例へばACでは、固有の機體は大抵「ボス」といふ固有の存在、固有の場面で登場する。同樣に、私にとつてラビットやハンマーヘッドは、「ボス」として眼前に立ちはだかる。彼らがどこに向かひ、私をどう壓倒するのか、それを樂しむ。


表紙にはMIKAMI LEMONとあり、奧附のタイトルではMikan Lemonとなつてゐるが、誤記かな? 奧附の制作者名は三上レモン、メロンブックスではみかんレモン。どちらでも通用するのだらうが、P&R投稿では困つた事になる。2024年10月20日:問合せたところ、Sirius MIKAMI LEMON ILLUSTRATIONSといふ囘答を頂いたので、修正。

ちなみに、サークル名はシトラスナイツと讀むらしい。


目次、ノンブル無し。34P36P

備考

MADOX-01 guraman2023 承 編 秋元こうじ著(サークル名:GRUMMANA&AMP、配置:E10a)

自衞隊×パワードスーツ。重装甲外骨格パワードスーツ「MADOX-01」の設定畫と漫畫。色んなバリエーション(宇宙対応型や潜水型など)やアタッチメント(多関節アーム等)、武裝(大型空母を一撃で撃沈することが可能な爆裂棒)があり、一種でも多樣な活動に臨む事ができる。造形は細かいが、線がすつきりとしてゐるので、全體として見易く、それでゐて暑苦しい感じが傳はつて來る。手描きの良さ。後書を讀むととんでもなく苦しみながら描いたやうで(ドクターストップが掛つてゐた)、それでさへこんなにすごいものが描けるんだと感心した(身體的にはかんばしくないのだらうが)。スペースにゐた人がどんな樣子だつたか覺えてゐないのだが、今も健やかに描き續けられてゐる事を願ふ。

パワードスーツつてあんまり關心が無いのだが、本作のは本當に描込みが細かくてすごいんだ。ディテールが好きな人には勸められる一作。後書によれば、次に出す転編では、全編漫画になる予定です。


目次、ノンブル無し。26P28P

備考